チームビルディングとは?これからの組織づくりに必要な考え方を学ぶ
チームとチームビルディングを知りチームワークの良い組織をつくる
ビジネス環境が大きく変化する近年、働き方や組織のあり方を見直される機会が増えてきています。
多様な働き方への模索が進む一方、組織のなかで高いパフォーマンスを上げることができるチームやチームワーク向上に焦点を当てる機会が増えつつあります。
普段、何気なく使っている「チーム」や「チームワーク」について社会科学の視点から解説するとともに、より良いチームをつくるための「チームビルディング」について事例を交えながら解説します。
この記事の目次
「組織」「チーム」「グループ」の違い
組織やチーム、グループなど、人の集団に関わる諸問題については、20世紀初頭以降から産業の分野と結びつきながら「社会心理学」や「組織行動論」の研究分野として発展してきました。
論文などでは概念的に語られていて、やや分かりにくい部分もありますが、その多くは経営学や組織論として企業でも応用されています。
まずは「組織」「チーム」「グループ」それぞれの違いについてご紹介しますね。
組織とは
会社や政府、病院、大学、労働組合など、なんらかの目的のために複数の人が一緒に働く集団が「組織」です。
組織の定義としてもっとも一般的なのは、アメリカの経営学者・C.I.バーナードによるもので、以下のように組織の定義と要件をあげています。
「2人以上の人々の意識的に調整された活動および諸体系」
<組織成立の3要件>
共通目的:組織のメンバーそれぞれは共通の目的を持っている
- 貢献意欲:協力して目的を達成する意思がある
- 意思疎通:協力するためにコミュニケーションを円滑に行う
組織の定義のなかにある「諸体系」はシステムのことで、お互いに影響し合う(相互作用)という特性をもっています。
つまり、組織は相互作用をプラスに働かせることで、個々のメンバーが単独で発揮できる力以上の成果を達成することができるのです。
また、意識的に調整できるという点も組織の重要な要素で、組織のトップによる統制や部門間のコミュニケーションによって、組織で行う活動を調整することができます。
チームとは
2000年以降からは組織行動論の分野で「チーム」について様々な定義がなされています。
そのなかで、チームの要件は以下のように定義されています。
- 2名以上の個人で成り立つが十分に少ない人数である
- 共通の目的と目標を持ち、全員が目的に同意し目標への達成意欲をもっている
- メンバーは互いに依存、補完し合う相互作用のある関係性をもつ
- それぞれに目的を達成するための役割が決められており、それを遂行するスキルをもっている
- 与えられた役割への個人的な責任とチームの出した結果に対する共同責任をもっている
- チームとチーム以外の境界があり、組織のシステムに組み込まれる
同じ目的達成に向けて相互に連携し、協力関係を築きながら個人の活動以上の成果や個人では達成不可能な成果を生み出すという点で、チームは組織と同じ性質をもっているのです。
では、組織とチームの違いはどこにあるのでしょうか?
組織とチームの違いは「チームは組織に統合されるものである」という点です。集団としての単位が組織よりも小さいため、組織の下位に位置づけられており、チームの活動は組織に依存しています。
グループとは
「グループ」も組織やチームと同様に個人がそれぞれの役割をもっており、その集団特有の公式・非公式のルールや風土があります。
グループの特徴は互いに影響し合い、強弱の差はあるものの集団に属したいという動機が働いていることです。
組織・チームとグループの違いは、組織やチームの方が集団のなかでの役割や責任がより明確になっており、それが目的を達成するために機能していること、目的達成に対する動機づけがより強いことです。
つまり、組織・チームはグループよりも大きな成果を生み出すことができるのです。
チームワークとは
「チームワーク」とは、個人の弱点をチームで補完しつつ、個人で行ったときよりも生産性や効率面で高い成果を生み出すことをいいます。
チームワークという言葉は、メンバー間の「仲の良さ」や「団結力の強さ」といった集団の状態をあらわす意味合いで使われていますが、実際にはもっと奥深いものです。
組織論や社会心理学による研究結果から、チームワークの科学的な効果や構成要素などについて解説していきます。
「チームワークが良い」とは?チームワークの効果指標
「チームワークが良い」という言葉がよく使われていますが、実際にはどのような状態を指すのでしょうか。
アメリカの社会心理学者・J.R.ハックマンは、チームワークの効果指標として3つの評価基準を提唱しています。
管理者または顧客が要求する職務遂行の量、質、速さ
(生産量、販売量、品質、顧客満足度、など)
② チームの存続可能性:
協働する能力を維持できるかどうか
(対人関係の良好さ、凝集性、集団同一視、など)
③ メンバーの満足度:
メンバーそれぞれに欲求を満たし、個々の学習と成長に資するものかどうか
(職務満足感、健康指標、など)
つまり、上記の「パフォーマンス指標」「チームの存続可能性」「メンバーの満足度」といった3つの評価基準が高い状態のことを『チームワークが良い』というのです。
ちなみに、これらの基準は数値化・観察できる行動的要素、対人関係や満足度といった可視化することのできない心理的要素に分かれています。
定量評価ができるパフォーマンスに対して、定性的な心理的要素は評価や解釈が難しいといったことも頭に入れておきましょう。
チームワークの構成要素
良いチームとは前述した3つの効果指標が高いことなのはお分かりいただけたでしょうか。
この効果指標を高めるための要素についても議論されています。
多くの研究者によって様々なチームワークの構成要素が取り上げられていますが、そのなかでも「メンバーの心理的要因」に関わる要素について4つご紹介します。
1.凝集性
「凝集性」とは、チームに所属することへの意欲や愛着、チームがメンバーを引きつける度合いといった意味のことです。
メンバー同士のコミュニケーションや支援関係、協力関係に大きな影響を及ぼします。
心理学者のレヴィンが提唱した「グループ・ダイナミックス(※)」のメインテーマとなる要素で、後継の研究者によって様々な実証研究がされています。
※グループ・ダイナミックス(集団力学)・・・集団における人々の思考や行動などを研究する学問領域のこと
2.チーム効力感
「チーム効力感」は、心理学者のバンデューラによって提唱された自己効力感を集団に広げた概念のことです。
チームの課題を遂行する際に、「このチームなら絶対に達成できる!」というメンバー間の信頼が強いほど良い結果に結びつきやすく、より困難な状況に克服しようとする力が大きくなります。
3.相互信頼感
組織行動論のS.P.ロビンスは「好業績チームの特徴は、メンバー間の高い相互信頼にある」と述べています。
つまり、チームメンバーの信頼関係が強いほど、高い成果を出すことができるのです。
相互信頼感は円滑なコミュニケーションが行われることが前提となっており、メンバー間の相互作用を促すためにはコミュニケーションが大切です。
4.心理的安全性
「心理的安全性」は、組織行動論のA.C.エドモントンによって提唱された概念です。チーム内で何かを発言したときに、他のメンバーがそれを拒絶したり、罰を与えるようなことをしないという確信をもっている状態のことを指します。
近年、Googleリサーチチームによるガイド「効果的なチームとは何か」のなかで、チームの効果性に影響する因子の1つとして示されたことによって、組織やチームを議論する際に多く取り上げられています。
チーム内で心理的安全性が確保されていることによって、コミュニケーションの敷居が下がり、協力や相互補完の関係にプラスの効果をもたらします。
さらに、自発的な行動が増えるためメンバー間の相互作用が深まり、創発(※)が起こる可能性を高めます。
※創発・・・部分の性質が単純な総和にとどまらない特性が全体として現れること
チームビルディングとは
「チームビルディング」は組織開発の手法として生まれた用語で、生産性の高いチームを構築するための意図的な取り組みを指します。
「意図的な取り組み」は組織行動論のなかでは「介入」という言葉で表現されています。コンサルタントなどチーム外からの助言や支援をもとに、チームワークの評価や改善に向けた行動プロセスの策定などが実施されることを意味しています。
組織のトップや人事部門などがファシリテーターとなって行うこともありますが、チームビルディングは組織行動学や社会心理学の知見がもとになるため、専門知識がないと効果に結びつきにくいという側面があります。
チームビルディングの必要性
チームであるためには、その成果がメンバー個人の成果の総和よりも大きくなければなりません。
たとえば、全行程を一人で作る場合と比べて、工場の生産ラインで流れ作業を行ったほうが遥かに多くの製品を作ることができます。しかし、この場合は流れ作業を行うメンバーの集団をチームとは呼びません。
各工程のメンバーがコミュニケーションを取り、ほかの工程の作業も理解した上で前後の工程のミスや不足をカバーし合い、生産技術を向上させながらそのメンバーでしかできない生産量を達成する。
また、生産効率をあげるためにメンバーそれぞれの意見に基づいて、全員で試行錯誤しながら工夫や改善につなげる。これらの課程を通して、新たな生産方法や新製品の開発に結びつくといった次元にまでライン全体としての価値が高まれば、その製造ラインのグループは「チーム」として機能したといえます。
このように、メンバーがそれぞれに影響し合い、ひとりひとりの能力や知恵が最大限引き出されることで期待以上の成果をあげたり、思いも寄らない成果を生み出す可能性が生まれます。それが”創発”という概念です。
創発は計画的につくり出せるものではなく、チームワークの構成要素が複雑に絡み合い、各メンバーが自律的に相互作用を与え合うことで生まれる可能性が高まります。
不確実性が高く、予測不可能なビジネス環境にさらされる現代において、現場レベルで様々な問題を解決して困難を克服できる「チーム」が求められています。
チームビルディングは、メンバーが互いに影響を与え合いながら学習し、成長できるチームを創り出すための重要な取り組みなのです。
チームビルディングはチームワークを向上させるための手段のひとつ
アメリカの経営学者・J.R.ホーレンベックはチームワーク向上の方法として3つのアプローチを示しています。
- チームの課題に合わせたメンバーの選抜
- メンバーに合わせた課題の調整
- 課題の要求水準に合わせてメンバーのモチベーションやスキルを向上させる
1と2はチームを設計するために行います。組織のなかでチームに求められる人材を適切に配置し、選抜した人材に応じてチームが果たすべき課題や役割を調整するという複合的な面を持ち合わせています。
これらを行うことで、チームワークが生まれやすい条件を整えることができます。
3には「チームビルディング」と「チームトレーニング」が当てはまります。チームビルディングはメンバー間の関係性や内面的な要素の改善に焦点を当てたもので、チームトレーニングはチームの課題達成のためのメンバーに対する情報提供を含めた教育や訓練のことを指します。
チームビルディングのポイント
チームビルディングの効果を高めるために大切な4つのポイントをご紹介します。
1.目標設定
組織から課題として与えられる目的や、チームが果たすべき目標を明確にしてメンバー間で共有します。
また、それらを細かく分析したマイルストーン(※)としての目標をメンバー自ら設定していきます。
※マイルストーン・・・プロジェクトを完遂するために重要な中間目標地点
2.対人関係
コミュニケーションロスや対人関係のストレスを解消するために、信頼関係を築くことも大切です。
摩擦や対立が起こった場合の建設的な解決方法など、コミュニケーションスキルの向上を図ることで、対人関係を維持する力を養います。これには、心理的安全性を高めるための取り組みも含まれます。
3.役割の明確化
個々のメンバーの役割を明確にした上で、それぞれが他のメンバーの役割についても理解できる状況を作り、相互理解を深めます。
場合によっては役割を共有し、ほかのメンバーの立場を体験する取り組みなども行います。
4.問題解決
課題の遂行に際して発生する問題をメンバーが自ら発見し、チーム全体での解決に結びつけるためのアクションプランや意思決定プロセスを明確にします。
問題解消や改善後の評価方法、評価計画も含まれます。
チームビルディングの実践
日常業務以外での活動を通じてメンバー間の相互理解や意見交換、信頼関係の構築につながる研修やアクティビティ、ゲームなどを行うことがチームビルディングとして普及しつつあります。
一般的には、ワークショップやゲームを通じた演習などを実施する研修と捉えられがちです。
しかし、具体的な方法は組織やチームそれぞれで異なるため、その効果検証も含めて長期的かつ日常的な取り組みを継続的に行っていくことが求められます。
チームビルディングの取り組みには具体的にどういったものがあるのか、3つの事例をご紹介します。
事例1:ソフトウェア開発会社
- 半年に1回、1泊2日のチームビルディング研修を数年間にわたって実施
- チームの形成段階に合わせてテーマを検討し、チーム立ち上げ段階ではコミュニケーションの活性化を目的とした演習や対話の場を設けるプログラムを設定
- 回を重ねるごとに、チームプロジェクト自体やチームビルディング研修に対する意見や提案が出るようになり、それが業務プロセスの改善や業務知識の底上げといった成果につながる
- ワーキンググループが出来上がるなど、チーム文化が根付くところまでチームビルディングが自律的な発展を遂げる
事例2:ソフトウェア開発会社
- デザイナーとソフトウェア技術者が、異なる職種の混成チームとして1つの組織に統合されたことからチームビルディングを開始
- 双方の職種を体験するという試みを行い、教える・教えられるという会話の機会をつくるとともに知識の共有を図る
- 各メンバーの状況共有のための短時間のミーティングによりメンバーから問題点をヒアリング、サポートを実施
- 目的の共有のためにプロジェクトの全体像を示すドキュメントを作成した上で目指すチーム像、職場の風土等、チームのあり方についてチーム立ち上げ期に話し合いを行う
- タスク開始時に課題、懸念、行動計画についてミーティング
- 日々のミーティングとタスクかんばんで役割を確認
- KPT法(※)を用いた振り返り
- 質問用紙法によるフィードバック
- 成果指標と質問用紙によるチームビルディングの評価・検証を実施
※KPT法:業務の振り返りのためのフレームワーク。良い結果が出た継続する取り組み(keep)、解決が必要な問題や課題(problem)、継続する取り組みのさらなる改善や問題・課題を解決するための施策(try)として結果を評価しチーム全体で共有しながら業務の改善を図っていく。
事例3:医療組織
- チーム医療の効果と有効性については多くの研究結果が存在
- 医師、看護師、医療従事者間のコミュニケーションと情報共有に関する従来から指摘されている問題を解消する方策としてチームビルディングを提案
- 医師チーム、医師・看護師チーム、医師・その他医療従事者の3チームの各メンバーへのアンケート、インタビューによりタックマンモデル※のどの段階かを分析
- 分析結果から取り組むべき措置を検討し改善を図る
※タックマンモデル:チームが機能するまでの形成過程を、形成期、混乱期、統一期、機能期、解散期の5段階に分類し一般化したモデルのこと
まとめ
チームビルディングとして「タックマンモデル」やゲームなどの演習が多く取り上げられ紹介されています。
しかし、長期的な観点と業務改善、メンバー個人の満足度向上につなげるための仕組み、そして効果検証まで含めたより積極的な取り組みが、チームビルディングには求められています。
また、権威主義的な文化のある組織、官僚的組織、個人のパフォーマンスと自律性に報いる文化をもった組織に対して、チームビルディングは有効ではないといった研究結果も報告されています。
「チームビルディングは万能ではない」という認識をもっておくことも重要です。
様々な組織で取り入れられるようになったチームビルディングですが、社会科学の分野に注目すると、納得性の高い知見を多く得ることができます。これから組織を作っていく創業者の方に活用していただきたいのがチームビルディングの考え方です。
(編集:創業手帳編集部)